好きを肯定する方法

よく晴れた日のことだった。
早朝の、まだ日が昇り始めて浅い時間。薄い青を敷く空の遠く向こうには、入道雲ができていた。今日も暑くなるだろう。サバナクローの寮生は暑さに強い方だが、我慢できるだけで暑くない訳じゃない。汗だってかくし、うだる熱気に体力も削られていく。
ラギーは自分の身支度もそこそこに、レオナの部屋を訪れた。昨夜は熱帯夜だったから、きっと布団はベッドの隅に追いやられているに違いない。
無遠慮に戸を開けてまっすぐベッドに向かった。案の定、布団は剥がれているし、着ていた服も脱ぎ散らかされている。それを一枚ずつ拾いながらベッドへ近づいた。
「レオナさーん。朝ですよー」
当然のように起きない。先にかき集めた服を脱衣場に持って行き、洗濯機に突っ込んだ。洗剤を入れてスイッチを押す。稼働したことを確かめて部屋に戻ってみるが、レオナが起きた気配は無い。

でも、それでいい。
レオナの部屋を訪れて、レオナが目が覚めるまでの数分間。
この時間は、ラギーにとって特別な時間だった。

ベッドに跪き、レオナの寝顔を見つめた。
あちこちに跳ねた鳶色の髪。寝癖を直して頬横の髪を結うのは自分の仕事。
存外柔らかな手触りの髪は、香油でも使えばもっと扱いやすく艶も出るだろうに、本人は嫌がるから困る。
(困らない。知っているのは自分だけでいい)
褐色の肌は年下の自分よりもキメ細やかで、覆せない育ちの差を感じて悔しくなったりする。
(こっそり触れて、撫でたりしているのは絶対に秘密だ)
閉じられている瞼の奥には、エメラルドの瞳が暗闇の中で光を携えている。
(見つめられると背筋が震えて動けなくなる。そのことを必死に隠さなきゃいけないのが目下の悩みだ)
眉も、鼻筋も、唇も、まるで精巧な人形のように配置されていて、神様はなんて生き物を作ってしまったのだろうと、ラギーは途方に暮れた。
こんなにも愛される為に生まれてきたものを、ラギーは他に知らないのに、レオナはまるで要らないもののように自分を扱う。

レオナさん。

最早呼び声は音にならず、吐息で呟いた。

レオナさん。俺の王様。大好きな人。

そっと指先に唇で触れた。それだけで、泣きたいくらいに幸せになるのだ。

「……ラギー……?」

ラギーは目を見開いた。
いつの間にか目を覚ましたレオナが、こちらを見下ろしていた。

見られた。見られた!

「ごめんなさい!」

ラギーは勢いよく体を離し、そのまま踵を返して部屋から出た。廊下を走り抜けて、自分の部屋に戻り、ベッドに突っ伏す。

「……最悪だ……」

一番見られちゃいけない姿を、一番見られちゃいけない人に見られた。

心臓が痛い。喉が痛い。目の奥が熱い。
口がカラカラに干からびて、砂を噛むような声で呻いた。
あの人は全く気にしちゃいないかもしれない。でもそんなの関係ない。
大事なのは、自分の中で大問題だってことだ。

遠くへ、行かなくちゃ。
あの人の中から自分の存在を消さなければ。
そうしないと、苦しくて苦しくて生きていられないのだ。

END