ハッピーホリデー

両手に抱えきれないほどの手土産を持たされ、ぐったりした顔でレオナは闇の鏡を跨いでナイトレイブンカレッジへ戻ってきた。
年末年始が親戚の集まる行事だと、誰が決めたのだろう。マメに帰省しないせいで、レオナは毎回やたらと家族から歓迎を受けるハメになっていた。
兄の息子チェカを筆頭に親戚の子供達からじゃれつかれたり、久しく会っていなかった叔父叔母から近況報告をねだられたり、どれだけレオナが気乗りしない素振りをしても、誰も気にかけず構い倒そうとする。
ライオンって生き物はどうしてこうも自分勝手でマイペースな奴ばかりなんだと、レオナは自分を棚に上げて深い溜息をついた。
それでもなんとか耐えて毎日を過ごしていたが、休暇終了を二日前にしてとうとう音を上げた。
学内はまだ帰省していない生徒が多く、人もまばらで閑散としている。寮に戻れば部活動の練習風景くらいは見れるかもしれないが、実家の喧騒に苛まれていた耳にはなんとも心地の良い静寂だった。

『俺がいないからって実家でもダラダラしてちゃ駄目っスよ』

「ダラダラする暇があったらよかったんだがなァ」

不意に幻聴が聞こえ、レオナは卑屈な笑みを浮かべて独り言ちた。
不遜なハイエナは自分とは真逆の性質をしている。子供の扱いも上手いし、心根は見せずに相手に合わせた態度や表情を作り上げることに長けていた。
帰省する直前も、人を食ったような顔をしてさっさと闇の鏡の彼方へ消えてしまったが、レオナはどうしてもそれが不満で、いまだに感情を昇華できずにいる。
とりあえず、ラギーが寮へ戻ってきたら即行呼びつけてこき使ってやろう。少しでも不満そうな顔を見せたら、翌朝まで拘束の刑だ。
具体的な八つ当たりが決まったところで少し溜飲が下がったレオナは、惰眠を貪るべく自分の部屋へ足を向けた。

「…………あ?」

自分の部屋へ入ると、ベッドに大きなタンポポが転がっていた。
小柄な体を丸め、すうすうと気持ちよさそうに寝息を立てている。手にはシーツが握り締められ、その寝顔は緩んでいて半開きの口からはヨダレが垂れていた。
おかしい。何故二日後に八つ当たりする予定だった相手が目の前にいるんだ。しかも人のベッドで勝手に寝てやがる。
抱えていた荷物を部屋の脇に下ろしベッドへ近づいて、緩みきっている寝顔を見下ろした。

「おい、起きろ」

タンポポは大きな耳をぴくりと震わせたが、むにゃむにゃと言葉にならない寝言を返しただけで、またすぐに寝息を立て始めた。

「おい。ラギー」
「……ん……、………」

名前を呼ばれたラギーは再度耳を動かすものの、やはり起きる様子は無い。しかもその寝顔があまりにも幸せそうで、レオナは休暇前の不満が再び頭を擡げてくるのを感じた。

人の気も知らねーで呑気な顔しやがって。

その時、再びラギーの口がむにゃ、と緩んだ。

「……れおな、さん」

ぐる、と喉を鳴らしながら発せられた寝言に、レオナは目を見開いた。
ラギーの両脇に手を付き、覆いかぶさるようにベッドに乗り上げる。レオナの重みでギシリとベッドが音を立てるが、ラギーが目を覚ます様子はない。

「ラギー」

その声音は静かで、相手を起こす為のものではなかった。存在を噛みしめるような、慈しみが漏れていた。こんな呼び方など、ラギーが起きている間にはしたことが無い。

「ラギー」

もう一度呼ぶ。ぴくりと耳がはためき、ラギーは喉を鳴らしながら握りしめたシーツに顔をすりつけた。

「そっちじゃねえだろ、バーカ」

シーツを握る手に己の手を重ね、指を付け根から辿って、シーツとの絡みを解すように動かした。抵抗は無かったが、不満そうに寄せられた眉間に小さく吹き出して唇を寄せる。すると、ラギーの喉がぐるると鳴くので、レオナは満足気に隣に横たわり、目を閉じた。